大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)5512号 判決

原告 日本タッパーウエア株式会社

右代表者代表取締役 ヘイマー・ウィルソン

右訴訟代理人弁護士 丸山武

同 中村治高

被告 浜口美代子

右訴訟代理人弁護士 高木康吉

主文

一、被告は原告に対し、金三、一八六、四二六円およびこれに対する昭和四三年六月二日より支払済みに至るまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決はかりに執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告は、主文同旨の判決を求めた。

二、被告は、原告の請求を棄却する、との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1  原告は「タッパーウエア」の商品名で呼称される簡易密閉容器の製造販売を業とする会社であるが、昭和四一年一一月九日被告との間で「ディストリビューター契約」なる名称の継続的販売契約を締結し、右契約に基づいて被告に対し、別紙タッパーウエア商品売渡一覧表記載のとおり、右同日以降昭和四三年三月二八日までの間に総額金二五、二四五、四五九円相当のタッパーウエア商品を売渡した。

2  被告は右代金のうち合計金一七、九三五、五八一円を支払ったのみであり、したがって、右残金のうち、販売奨励費、返品料、商品引取料等合計金四、一二三、四五二円の経費を差引いた残金三、一八六、四二六円が未払いである。

3  右未払残金の弁済期は、遅くとも本件訴状が被告に送達された翌日である昭和四三年六月二日までには到来している。

4  よって原告は被告に対し、右未払残金三、一八六、四二六円およびこれに対する弁済期の後である昭和四三年六月二日より支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する被告の認否

請求原因事実をすべて認める。

三、被告の抗弁(相殺)

1  被告は原告に対し、債務不履行もしくは不法行為に基づく金四、三七〇、六五二円の損害賠償債権を有する。

すなわち、

(一) 原告のタッパーウエア商品は、まず、原告から卸商人的性格の「ディストリビューター」と呼ばれる者へ、次いでこの者から「エリア・アドバイザー」(以下AAと略称する)といわれる者の手を経て小売商人としての「ディーラー」へ、最後にディーラーから一般顧客へという経路をたどって販売される。

すなわち、原告はディストリビューター契約に基づいて、ディストリビュターに対し継続的に一括販売する。そしてディストリビューターは配下に数人のAAを従え、AAは部下に数人のディーラーを抱えて一つのチームを組織する。原告とディストリビューターおよびディーラーとの関係は雇傭関係ではなく、三者は独立の商人である。以上のような仕組みを関係者間では「ホーム・パーティ組織」と呼んでいるが、これによってタッパーウエア商品が販売されるのである。

(二) したがって、右のような組織を定めかつディストリビューター契約を締結した目的からすれば、原告とディストリビューターは、互の営業活動を尊重し、みだりに干渉しない義務を負うものであり、したがって原告は、ディストリビューターが前記のように配下にAAおよびディーラーを従えて営業を行なっている一つの人的組織体に対し、これを不当に切りくずし或はこれを弱体化するような行為に出てはならないという不作為義務を負うのである。

(三) 被告は、神奈川県下の藤沢、鎌倉、逗子、茅ヶ崎、平塚、厚木、小田原を販売地域とするディストリビューターである。そして原告の加藤副社長(代表取締役)は、被告と本件ディストリビューター契約を締結するに際し、前記(二)の趣旨を明らかにするため、被告の承諾がなければ将来同県下においては新らしいディストリビューターを選任しない旨確約した。

(四) しかるに原告は、前記ホーム・パーティを組織する人員がすべて婦人であって従順で抵抗力の弱い集団であるのを奇貨として、次のような不当な手段を用いて被告配下の有能なAAおよびディーラーを引き抜き、被告の承諾なしにAA二名と新たなディストリビューター契約を締結して、被告の掌握していたチームを弱体化させた。すなわち、昭和四二年一一月ごろ、原告は被告配下の有能なAAである渡辺孝子、斎藤規子および瀬戸絹枝に対し、人を派し、或は電話又は電報で連日連夜ノイローゼに陥るくらい執拗に、彼女らが被告の配下を脱しそれぞれ独立したディストリビューターになるよう勧誘したので、その結果渡辺孝子は配下のディーラー六名と、斎藤規子は配下のディーラー一四名とともにそれぞれ被告の配下を離脱し、右のAA二名は同月二〇日ごろ原告との間で新たにディストリビューター契約を結び、神奈川県全体を販売地域とする独立のディストリビューターになった。また瀬戸絹枝は、そのころ配下のディーラー一〇名と共に被告の所属を離れ、右渡辺孝子ディストリビューター配下のAAとなった。その結果、被告が配下に従えていたAAおよびディーラーは合計で従前の七三名からわずかに四〇名に減ってしまい、したがって当然被告の売上げが激減した。

(五) 右のような原告の行為は、ディストリビューター契約上の前記債務の不履行であり、前記の約定に違反するのみならず、その手段の不当性からみて不法行為をも構成するものといわなければならない。しかして被告は、原告の前記行為に因って、合計金四、三七〇、六五二円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙った。すなわち、従前の実績からすれば、被告は、前記三名のAAの活動により、各チーム顧客に対する売上代金の平均七・八パーセントの純益、すなわち一週間につき、渡辺孝子チームから金六、四五一円、斎藤規子チームから金一二、四〇二円、瀬戸絹枝チームから金一四、二五八円合計金三三、一一一円の純益を収めていたので、もし原告の前記引き抜きがなければ、被告は右三チームの活動により、引き抜き行為の後である昭和四二年一一月二一日から昭和四五年六月二日までの一三一週間に限ってみても合計金四、三七〇、六五二円の純益を得た筈である。

2  そこで被告は原告に対し、昭和四五年七月一一日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償債権をもって原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。故に原告の請求は失当である。

四、抗弁に対する原告の認否

1  抗弁1(一)の事実中、販売経路を除きその余の事実は認める。AAは、ディーラーのうちのリーダー的存在ではあるが、ディーラーと同様ディストリビューターと販売契約(通常は「独立デモンストレーター契約」と称する契約)を結んでおり、またディストリビューターが直接顧客に販売することもあるので、本件商品は、原告からディストリビューターの手に渡った後、AAやディーラーの手を経て一般顧客に販売される場合と然らざる場合とがあるのである。

2  同(二)の事実は否認する。双方に契約を遵守すべき一般的義務のほかに被告主張のような特別の義務を負うものではない。

3  同(三)の事実中、被告がその主張のような販売地域をもつディストリビューターであることは認め、その余の事実は否認する。

4  同(四)の事実中、原告が被告主張のころ渡辺孝子および斎藤規子との間で新たにディストリビューター契約を結び、同女らが神奈川県全体を販売地域とする独立のディストリビューターとなって、部下のディーラーと共に被告の配下を離脱したこと、瀬戸絹枝がそのころ配下のディーラーと共に被告の所属を離れ、右渡辺孝子ディストリビューター配下のAAになったことは認め、その余の事実は否認する。原告は決して被告主張のような不当な手段を弄していない。すなわち、原告は、昭和四二年一一月ディストリビューターの増員のため、会社の首脳部が各ディストリビューターと面接し、ディストリビューターを続ける意思の有無および配下のAAをディストリビューターにすることの可否について意見を聞いたところ、被告をも含め特に反対意見がなかったので、同月中旬ディストリビューターとAAを集め、AAのうちからディストリビューターになりたいものの希望を募り、希望者のうちから原告において適当と認めた者と新らしくディストリビューター契約を結んだものである。前記渡辺、斎藤両AAはこのようにして原告と契約したものであり(なお同女らの場合は、被告の私生活上の事情を理由に被告の下でAAを続けたくない旨の強い申出が原告に対してなされていた)、これについては被告は特に反対していなかったのである。

また前記瀬戸AAは、一度はディストリビューターになることを希望したが、その後その意思を撤回し、自らの意思により渡辺配下のAAになったものである。

5  同(五)の事実は否認する。原告がタッパーウエア商品の販売方法として採用しているディストリビューター制度、ホーム・パーティ方式は、まずディーラーとなり次いでAAとなって経験を積んだ者が、自らの意思により従来所属したディストリビューターから離れ、自ら独立したディストリビューターとなって新たなホーム・パーティを組織していくことを当然の前提としているし、また渡辺らが被告の配下を離脱した前記の事情に鑑みれば、原告らの行為は決して被告主張のように債務不履行もしくは不法行為を構成するものではない。しかも被告は、原告がAAの引抜きをしたという昭和四二年一一月よりも以前の同年七月の時点で、既に金三四〇万円程度の赤字を出していたのであるから、主張の如き利益のある筈がない。又、損害額に関する被告の主張は、斎藤、渡辺、瀬戸の三AAが昭和四五年六月二日までAAの仕事を継続し、かつ、被告の配下の地位に留っていたとの仮定の事実を前提とし、加えて、被告が原告からディストリビューター契約を解除されてから他社に勤務して収入を得ている事実を無視するものであって、合理性のある主張ではない。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二、そこで抗弁(相殺)について判断する。

1  被告と原告との関係

(一)  原告は、「ディストリビューター契約」なる名称の継続的販売契約に基づいて卸商人的性格の「ディストリビューター」と呼ばれる者(以下ディストリビューターという。)に対し継続的に「タッパーウエア」の商品名で呼称される簡易密閉容器(以下タッパーウエア商品という。)を一括販売すること、ディストリビューターは配下に数人の「エリア・アドバイザー」といわれる者(以下AAと略称する。)を従え、さらにAAは部下に数人の小売商人としての「ディーラー」と呼ばれる者(以下ディーラーという。)を抱えて一つのチームを組織すること、原告とディストリビューターおよびディーラーとの関係は雇傭関係ではなく、三者は独立の商人であること、以上のような仕組みを関係者間では「ホーム・パーティ組織」と呼んでおり、これによってタッパーウエア商品が販売されること、以上の各事実は当事者間に争いがない。この事実と≪証拠省略≫を総合すると、

(1) ディストリビューターは、ディストリビューター契約の有効期間中、原告のいわば指定販売店となってタッパーウエア商品のみを取扱うことを義務づけられ、契約において定める地域を一応の各自の販売地域とし、販売のために前示のような人的組織のほか事務所、倉庫等を備え、原告より買入れた右商品を自ら直接に、またはAA、ディーラーの手を経ていわば間接的に、一般顧客に対して販売すること、原告の定める販売方針によると、顧客に対する小売価格を一〇〇とした場合、ディーラーもしくはAAに対する販売価格七〇から原告よりの購入価格五〇を控除した残り二〇が、ディストリビューターの計算上の販売差益であり、さらにその利益中から、プロモーション(販売促進費)二・五、AAに支払うコミッション三および会場費、通信費、運送費等の諸経費をディストリビューターが自弁で負担するものとされていること、ディストリビューターはその独立採算によって右のような営業活動を営んでいること、原告は販売促進の資料に供するため、各ディストリビューターからその配下のAAのチームごとの売上を週間報告させていること、

(2) ディーラーは、ディストリビューターとの間において、通常「独立デモンストレーター契約」と称する販売契約を締結するが、ディーラーの選任は最終的にはディストリビューターの判断でなされ、顧客に対する再販売方法についてはディストリビューターの定める方針に従うものとされていること、顧客に対する小売価格を一〇〇とした場合これからディストリビューターよりの購入価格七〇を控除した残り三〇がディーラーの計算上の販売差益ではあるが、その中から通常一〇前後の経費を自弁で負担すること、

(3) AAは、一般のディーラーと同様ディストリビューターとの間で前記(2)のごとき契約を結んでいるが、自己が勧誘し、指導育成した(これを関係者の間では「リクルート」と呼ぶ。)ディーラー達によって構成されるチームのリーダ的存在であり、ディストリビューターから、チーム販売上の三パーセント相当のコミッションを、また原告から交通費等の補助を、それぞれ支給される点で一般のディーラーとは区別され、特殊な職務上の呼称であること、AAはディーラーの経験を積んだ者のうちからディストリビューターの推薦により、原告においてこれを選任すること、

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  そして被告が、神奈川県下の藤沢、鎌倉、逗子、茅ヶ崎、平塚、厚木、小田原を販売地域とするディストリビューターであったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、昭和四二年四月ないし同年一一月ごろまでの間において、被告の配下には渡辺孝子、斎藤規子、瀬戸絹枝を含め、六名ないし八名のAAが所属していたこと、右期間中渡辺、斎藤、瀬戸の三チームの活動によって、被告は抗弁1(五)記載の程度の週平均純益(合計金三三、一一一円)を収めていたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  以上の事実を総合すれば、被告は原告に対する関係で、継続的売買契約の当事者(買主)であったと同時に、ディストリビューターとして、営業方針等につき直接的もしくは間接的な指示・制約を受けつつも、配下のAAおよびディーラーとを人的構成要素とし、かつ、現に収益をおさめ得る一つの営業的組織体の統轄者たる地位にあったということができる。

2  被告配下のAA三名が離脱した事情

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると、

(1) 原告は、昭和四二年四月全国的にAAを昇格させてディストリビューターを増員する方針を樹て、同年五月全AAに対しその旨の社長書簡を発送し、さらに同年九月ディストリビューターとAAの全国大会で同旨の社長説明を行なったこと、そして原告の右方針についてはディストリビューターからも殊更に異議が出なかったため、同年一一月初め、AAの集会において、原告からディストリビューターの業務内容、性格およびディストリビューターの増員計画について説明を行ない、同時にAAのうちからディストリビューターになりたい希望者を募ってそのうちから原告において適当と認めた者を選任する方法によって増員手続を進めたこと、

(2) その手続の一環として、原告は、同年一一月八日ディストリビューター資格審査委員会名で、瀬戸絹枝および斎藤規子両AAを含む希望者に対し、個別的に相談したい旨の電報を打電したこと、斎藤規子は、翌九日原告の本社に赴き、ディストリビューターになることを希望して同日ディストリビューターに内定したこと、瀬戸絹枝は、一度はディストリビューターになることを希望したが、自宅の営業的設備の不備等の事情からその意思を撤回し、同月一四日渡辺孝子とともに原告の本社に赴いて、自己の代わりに右渡辺をディストリビューターとするよう推薦し、同女もこれを希望したため、原告は渡辺との間でディストリビューター契約を結ぶことにしたこと、

(3) ところが被告は、自己の配下に所属する前記渡辺らが、原告の方針に副ってディストリビューターになりたい旨の意向を有し、かつまた原告との間で右のような手続を進めていたことについては同月一五日のディストリビューター会議に至るまで原告からも、そしてまた右渡辺ら本人からも聞き及んでおらず、右会議の席上初めてその事実を知ったこと、そこで直ちに原告の首脳部に対し、渡辺らがディストリビューターになることには同女らを統轄するディストリビューターとして同意できない旨の意向を申し入れたこと、

以上の各事実が認められる。≪証拠判断省略≫

(二)  そして、原告が昭和四二年一一月二〇日ごろ渡辺孝子および斎藤規子との間で新たにディストリビューター契約を結び、同女らが神奈川県全体を販売地域とする独立のディストリビューターとなって、その部下のディーラーと共に被告の配下を離脱したこと、瀬戸絹枝はそのころその配下のディーラーと共に被告の所属を離れ、新たに右渡辺孝子ディストリビューター配下のAAになったこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

3  債務不履行責任もしくは不法行為責任の成否

(一)  ≪証拠省略≫によれば、前記AA三名が被告の下を離脱したため、被告配下のAAは三名に、ディーラーは約四〇名にそれぞれ減少し、組織的には弱体化したこと、したがって営業成績も減少し、翌昭和四三年三月二八日までの間に、請求原因2記載のとおりの原告に対する未払債務を生ずるに至り、遂に原告は同日被告とのディストリビューター契約を解除したことが認められる。

(二)  ところで、被告は、右(一)認定の結果を被告が余儀なくされたのは、原告の被告に対する営業妨害に因るものであり、これはディストリビューター契約上の債務不履行であるのみならず不法行為をも構成する旨主張するのでこの点につき判断する。

(債務不履行について)

(1) 前記1の(一)ないし(三)において認定説示した被告と原告との関係に徴すれば、原告が被告の営業活動を尊重すべき契約上の一般的義務を負うべきは当然である。しかしながら、進んで、原告がディストリビューターである被告の配下にあるAAと新たにディストリビューター契約を結んではならない契約上の不作為義務を負うとの被告主張事実は右認定事実と次の認定事実とに照らせばこれを首肯し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

すなわち、≪証拠省略≫を総合すれば、ディストリビューターは、ディストリビューター契約上定められた自己の販売地域において独占的販売権を有するものではなく、他のディストリビューターの販売地域において販売活動を行なうことも可能であり、また、需要の状況に応じ同一地域でディストリビューターを増員できるものとされていること、現に被告が、昭和四一年一一月原告においてデュストリビューター制度を採用すると同時に前示のようにディストリビューターになった際、神奈川県下には同女を含め三名のディストリビューターが選任されていること、ディストリビューターの増員は、通常、販売・指導能力に秀れたAAのうちから希望者を募り、原告において適当と認める者を選任する方法で行なわれること、配下のAAが独立することによってディストリビューターは一時的には営業的打撃を蒙むるが、他の構成員も右のような昇格を目標として活動する結果かえって組織全体に活力を生み販売成績があがるため、従来原告においてもディストリビューターに対し積極的に右の方針を指導していること、したがってディストリビューターは、配下のAAの独立につき承諾を与えるのが通例であること、昭和四二年五月から同年一二月までの間に、全国でAAからディストリビューターに昇格したものは前記斎藤および渡辺を含め四〇名にのぼったこと、以上の各事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) さらに被告は、原告と本件ディストリビューター契約を締結する際、被告の承諾がなければ新たなディストリビューターを選任しない旨の特約があった旨主張する。そして≪証拠省略≫には右主張に副う供述ないし記載があるが、右(1)の認定事実ならびに≪証拠省略≫に照らせば、これをにわかには措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) よって債務不履行の主張は採用の限りではない。

(不法行為について)

被告が一つの営業的組織体の統轄者たる地位にあったことは前記1の(三)に説示したとおりであり、また、被告配下のAA三名の離脱が、結果として被告の有する右のような地位ないし利益を侵害する結果を招来したことは前認定のとおりである。そして被告は右AA三名の離脱は原告が不当な手段を用いてなした引抜きに因るものであって不法行為にあたると主張する。しかし前認定のディストリビューター制度および渡辺らの離脱した事情とに徴すれば、被告の右主張はこれを肯認することができない(≪証拠判断省略≫)。したがって不法行為の主張も理由がないことに帰する。

4  以上の次第で、被告の相殺の抗弁は反対債権発生の前提要件が認められないから、その余の点につき判断するまでもなくこれを採用することができない。

三、むすび

よって、原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊東秀郎 裁判官 小林啓二 篠原勝美)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例